月別アーカイブ: 5月 2018

サインの宛名をハングルで

ゴールデンウィーク中の市場は微妙。観光客が押し寄せる店や食堂は無休で店を開け、地元客が通う店は「清明」のために休業していたり。
「清明(シーミー)」とは、二十四節季の一つ。沖縄ではご先祖さまたちのねむるお墓の前で一族が集まる、お墓まいり。お供えのお重を持って家族総出ででかけます。

5月4日と5日の2日間、市場の古本屋ウララの店番をしました。いつものコーヒー屋さんは開いているけど、お昼を調達する総菜屋さんは2軒とも閉まっていて、きっと清明に行ったのですね。そういう時は、いつもと違うお昼ゴハンを買う、それも楽しみ。
東京での発売イベント(4月28日の「いきもののオト、きこえますか?」池袋オクターブハウス)から戻って、ぼーっと疲れが取れぬまま、お店番が始まりました。

絵本を最初に買ってくれたのは、本土からの家族連れの観光客。学齢前らしき男の子を連れて、「ゼツメツキグシュですって、CDもあるよ、絵本と音で答え合わせができるね」と言って、CDまで手を伸ばしてくださったのだけど、お買いもとめまではいかず。喉元まで「わたし。。作者です」と出かけた言葉を、飲み込む。まだまだ押しが足りないな、ちょっと後悔しました。
初めて自分の手で売った自分の絵本。本とお釣りを順番に手渡しながら、うれしい気持ちを噛みしめました。

2冊目は、韓国からいらした家族連れのお客さん。小さな赤ちゃんを抱きかかえたお父さんが、ニッコリとお店の前に立って、「ウララの本を読んできました」。(あっ、来た!ウララファン)

この本を読んで沖縄へ

いつもの通り「宇田智子さんは、今日はいません。ごめんなさい」。言葉を交わすうちに、「息子に絵本を買ってあげたい」とおっしゃるので、絵本の並ぶ棚を教えました。
「ゼツメツキグシュノオト」に目をとめてくださってる、、、と思った瞬間、「それ、私の本です」と口から言葉がこぼれ、「アイム・イラストレーター」と、日本語では言いよどむ言葉を勢いよく発していました。
即決で買ってくださるとこになって、サインを求められ、宛名に男の子の名前を書きました。サインに宛名を書くのは初めてでした。
ハングルの綴りをたずねるとメモ用紙に書いてくださって、それを一文字ずつ絵本に書き込みました。うれしくて、自分のサインを自ら写メ。そんな一連の作業をする、ほんのわずかの時間ですが、なんとも言えない良い空気が2坪の店を満たしてくれたように思います。

3冊目は、ウララの常連さん。地元の知り合いが買ってくれました。もちろんCDも一緒に。もう躊躇はナシ。

音楽のちからで海を渡るぞ

(つづき)
その(2)
音楽のちからで言葉の壁をこえるぞ!

ウララの帳場に座っていると、1日に3組くらい、外国からのお客さまが本や絵はがきを買っていかれます。
それは、店主宇田智子さんの本、前述の「那覇の市場で古本屋」の韓国版と台湾版、また彼女の2冊目の本「本屋になりたい〜この島の本を売る」(ちくまプリマー新書)を読んでウララにやってくる方たちで、お店のまえに立たれただけで、宇田さんの読者だとわかります。

「本を読んで、沖縄へ来ました」「いい本屋ですね」「本屋をやりたいんです」と、なかには日本語で話しかけてくださる方もいらっしゃいます。宇田さんと話すために、この言葉を用意して来たんだろうな、と思うと申し訳ない気持ちになります。2坪もないこの店でちいさな国際交流が生まれるのは、宇田さんの『本』があるからで、まぶしく、羨ましいことでした。

CDも店頭で見つけてね

そんな店頭に、絵本「ゼツメツキグシュノオト」を置いてもらえる。夢のような話です。実際にはCDも置いてもらいました。ピアニストの内藤晃さんの繊細なピアノは、清らかな気持ちにさせてくれます。CDの中には私の朗読も入っていて、それは「生きものたちのつぶやき」と思ってください。録音した当座は恥ずかしくて仕方ありませんでしたが、今はやっとこれも作品の一部と思えるようになりました。(朗読なしでピアノだけで聴くこともできますので、ご安心ください)
音楽がいっしょだと、日本語が読めなくても、音楽のちからで「ゼツメツキグシュノオト」のエッセンスが伝わるにちがいない。春畑セロリさんのピアノ曲には、エッセンスをナチュラルに伝える魅力があります。

というわけで、那覇の小さな古本屋の店先で、これからもたまに店番をしながら、コツコツと絵本を、CDを、できたら楽譜も、世界へ売っていきたいと思っています。きっと言葉をこえて、「ゼツメツキグシュノオト」のメッセージが伝わると信じています。

表紙にフクロウがいる理由

この週末あたり、「ゼツメツキグシュノオト」の絵本が全国の書店の店頭に並ぶことと思います。半年前、絵本化の話を最初に聞いたときには、『不安』の2文字しか頭に浮かびませんでした。「売れなかったらどうするの???」

しかしその一方で、市場の古本屋ウララの店頭で、一冊一冊絵本をコツコツ売っている自分の姿を想像しました。

月に1度か2度、ウララのお店番を手伝うようになったのは、2016年の秋ごろなので、連載に行き詰ってウンウン唸っていたころと重なります。(音楽之友社のHPで連絡が始まったのが、2016年1月。月1回の連載が1年半続き、18作品(絵とピアノ曲)が出来上がったのが2017年6月)

連載が終わったら楽譜になることは決まっていましたが、思いがけず、CD化や絵本化の話が舞い込んで来ました。話が進行する中で、ウララの店番をしながら思ったことがいくつかあります。

その(1)
ここで売るなら、表紙はフクロウの絵にしよう!
ウララのアイコンはフクロウです。店の看板も、店内にも木彫りの置物のふくろうが居ます。(なぜフクロウなのかは、宇田智子著「那覇の市場で古本屋〜ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々」ボーダーインク刊のP124でどうぞ)
斜向かいに「ふくろう楽園」という施設ができて、生きたふくろうが見られるのですが、そこが出来たのはウララの開店よりも後のことです。

絵本の表紙

絵本のために描き下ろした表紙にはリュウキュウコノハズクがいます。ウララの店頭で、自分の手で絵本を売って、ひとの手に渡っていく。だとしたら、この場所から自然につぶやける絶滅危惧種はリュウキュウコノハズクだ、と思いました。
小さな店にぎっしり詰まった本の間からみえ隠れするコノハズク。シーソーみたいに揺れる琉球松の小枝にちょこんとのったコノハズク。

当初、『不安』の2文字しかなかった頭の片隅で、表紙のことを考えている。あきれたもんです。

その(2)については、また明日書きます。(つづく)