「音の台所」というのは、ペンネームとして考えたものではありません。自分のホームページを作ったとき、タイトルとして名づけたのが最初で、ほら、この通り今も続いています。
そのうち、ちょっとした文章を書いたり、イラストを描いたり、コンサートのプログラムのレイアウトをしたり、企画のお手伝いをして「協力名義」に名前を出す必要があるとき、「音の台所」を名乗っていました。社名のような、ユニット活動名のようなところが便利だと思っていました。
6年前に音楽紙芝居を作りはじめ、その1年後に沖縄へ引っ越してからは、取材を受ける機会も増えて、ペンネームの説明や肩書きを求められると、長くなってしまい、字数の限られた紙面をやりくりする記者の方たちに迷惑をおかけしていると、申し訳なく思っています。
肩書きについては、「イラストレーター」と紹介されることも多いのですが、その度に居心地のわるい気持ちで、「そんなにイラストをバリバリ描いてるわけじゃないしなぁ……」と心のなかで、ため息をついてます。
居心地が良いといえば、音楽紙芝居をやっている自分がいちばん自然でいられると感じています。絵も構成も文も、そして語りも、それらがいつの間にかまとまって表現できる音楽紙芝居が、やりたいことを正直に表現できます。
沖縄に来てみたら、うちなーぐちで紙芝居をやっている紙芝居屋のさどやんが居て、「かみしばいいんちゅ」という素敵な言葉を教えてくれました。
沖縄の人を「うちなーんちゅ」、漁師(海人)を「うみんちゅ」と言うように紙芝居をする人が「かみしばいいんちゅ」。初めて同業者に出会えたような気がして嬉しい気持ちになりました。さどやんも絵を描き、台本も書き、自分で演じます。
やがて、那覇で版画を習う機会にめぐまれました。工房展などに参加するときは本名で作品を展示しています。
そろそろ「音の台所」というペンネームを脱ぎ捨てたいな、と思っていたころ、セロリさんとの連載が始まりました。
春畑セロリと音の台所、この組み合わせ、もうこのまま行った方が良いという天の声のようでした。コラボレーションの相手がセロリさんでなかったら、音の台所は脱いでいたかもしれません。
そういうわけで、説明が面倒なペンエームともう少し付き合うことになると思います。